治療のゴール:皮膚を「掻かなくて済む状態」で安定させる

アトピー性皮膚炎の治療は、見た目をきれいにすることだけが目的ではありません。
かゆみを減らし、掻き壊しを防ぎ、睡眠・学習・生活の質を守ることが大切です。


治療の柱は3つ

  1. スキンケア(洗う+保湿)
  2. 炎症を抑える外用治療(主にステロイド外用など)
  3. 良くなった後の再燃予防(維持療法/日常管理)
    この組み合わせが、ガイドライン(参考文献1)でも基本戦略として整理されています。

1)スキンケアとは何ですか?

アトピー性皮膚炎でいうスキンケアは、主に

  • 入浴で皮膚を清潔にする(汗・汚れ・刺激物を落とす)
  • 入浴後すぐに保湿して、皮膚バリアを補う

を指します

体の洗い方:ポイントは「泡で洗う」

  • よく泡立てた石けんを使い、素手+泡のクッションでやさしく洗います
  • 汚れや汗、掻き壊し部位に増えやすい細菌は、かゆみ・悪化の一因になり得ます。

コツ(家庭で再現しやすい3点)

  1. “コシのある泡”を作る(泡立てネットでも可)。
    一般的な石けんを泡立てネットなどを用いて、モコモコの泡を作って下さい。フォーム状の石けんを用いても大丈夫です。泡を手のひらにのせた後、手のひらを返してみましょう。泡が落ちないくらいが適切です。
  2. 脇・肘窩・膝窩・首・耳の後ろ・股など、しわを伸ばして洗う
  3. 顔も含めて全身を洗う(目周りは泡のコシを意識し、すすぎは手早く)

体の拭き方

ゴシゴシは刺激になります。タオルで押さえてポンポンが基本です。

保湿はいつ塗る?

入浴後は皮膚が乾きやすいので、できれば5~10分以内に保湿が推奨されます。

保湿剤は何のため?

保湿は「炎症を治す」薬ではありませんが、皮膚バリアを補い、再燃を減らし、結果としてステロイド外用の使用量が減る可能性が示されています。(参考文献3)

アトピー性皮膚炎のお子さんの皮膚はバリア機能が弱く、容易にアレルゲンが侵入したり皮膚内の水分が蒸散しやすいという特徴を持っています。保湿剤は皮膚を保護し、湿疹や外部からの異物を侵入し難くすることができます。

保湿剤の種類(処方でよく使う例)

  • 白色ワセリン系:保護力が高いが、べたつきやすい
  • ヘパリン類似物質のクリーム(ソフト):中間的
  • ローション:さらっと塗れるが、乾燥が強い時期は物足りないことも
    (使い分けは、乾燥の程度・季節・部位・使用感で相談しながら決めます)

1日何回?

目安は朝+入浴後の1日2回。汗をかいた日(体育・校外学習・プールなど)は、可能なら追加で対応します。

アトピー性皮膚炎のお子さんでは、入浴後に保湿剤を塗布しないと、皮膚乾燥が入浴前よりも悪化します。このため、入浴後の保湿剤の塗布は必須です。(参考文献4)朝もう一度塗布する理由は、保湿剤を入浴していない皮膚に塗布すると、皮膚水分量を2倍程度まで増やす可能性が示唆されているからです。(参考文献4)なお、アトピー性皮膚炎のお子さんの湿疹には細菌が定着しやすく、痒みのもとになります。これらを綺麗に洗い流す必要があるため、必ず1日1回は入浴して、皮膚を清潔に保つ必要があります。

学校での現実的運用:
「汗をかいたら早めに拭く/着替える」「必要なら下校後すぐ保湿」のように、学校内で無理なくできる対策と家庭ケアをつなぐのが現実的です。生活管理指導表には“発汗後の留意点”が項目としてあります。(参考文献2)

軟膏の使用期限

明確な一律ルールはありませんが、衛生面から開封後は早めに使い切る(目安:数か月以内)を基本に、気になる変化(分離、におい等)があれば交換します。


2)ステロイド外用薬は何のために使う?

ステロイド外用は、湿疹=皮膚の炎症を抑える主役です。保湿だけでは炎症は止められません。

ステロイド外用の“強さ”は5段階

ステロイド外用薬は作用の強さで5段階に分類され、年齢・部位・重症度で使い分けます。
(ここは必ず「主治医の指示」が優先です。自己判断で強さを変えないでください。)

副作用は?

他の薬剤同様に副作用はありますが、適切な軟膏管理をすることで最小限かつ一時的なものに抑えることができます。

主な副作用は長期連用することで、皮膚が薄くなったり、血管が目立つようになることです。塗布を止めることで、1か月程度で戻ります。思春期以降になると皮膚線条とよばれる妊娠線のような皮膚を呈することがあります。この副作用は改善しないため、乳幼児のうちに湿疹をコントロールし、必要最低限の軟膏塗布で治療することが重要です。

乳幼児のお子さんでは、年齢に応じた適切な強さのステロイド軟膏を選択し、定期的な医師の管理を行うことで、安全に治療することができます。

しっかりと軟膏と塗布し、皮膚を完全につるつるぴかぴかの状態にしてから、徐々に使用する頻度を減らします。

ステロイドの副作用は長期間連用することにより起こります。このため、まずはしっかりと湿疹を治療してから、連日塗布していた軟膏を2-3日1回に頻度を徐々に減らします。ステロイド軟膏の塗布頻度を減らしたら、その分保湿剤を塗布して、湿疹を予防することが重要です。

しっかり改善せずに塗布頻度を減らすとすぐに湿疹が再燃してしまい、ステロイド軟膏を連用せざるを得なくなります。副作用予防の観点からも最初が肝心です。

「リバウンド」について(誤解されやすい点)

一般に“リバウンド”は全身投与(内服・注射)を急にやめた時に問題になりやすい概念です。
しかし、ステロイド軟こうを使用する場合は、適切に使用していればリバウンドが問題になることはありません。これはステロイド軟膏に、自分で作るステロイドの量を抑制するほどの力がないからです。

患者さんの中には、アトピー性皮膚炎の治療でステロイド軟こうの使用を止めると、湿疹が再び悪化することを「リバウンド」と誤解していることが多いです。しかし、これは本来の意味とは異なります。

そもそもステロイド軟こうをやめたときに湿疹が悪化するのは、十分に湿疹が治まっていないのに、ステロイド軟こうを止めることが原因であることがほとんどです。ステロイド軟こうは湿疹が完全になくなるまで、皮膚がツルツルピカピカになるまで、しっかり塗り続けることが非常に重要です。治療の終了・減量のタイミングは、必ず主治医とすり合わせてください。


3)ステロイド以外の外用薬・維持療法

アトピー性皮膚炎では、指導表にも記載があるように、タクロリムス軟膏(プロトピック等)などが使われることがあります。ステロイド以外の外用薬の詳しい紹介は別の記事で行います。
また、良くなった後に再燃を減らすため、医師の判断でプロアクティブ療法(維持療法)を提案することがあります。治療は「悪いときだけ」ではなく、安定させるための設計が重要です。


4)赤ちゃんはみんな保湿すべき?

現時点で分かっていることとしては、すべての赤ちゃんに必要というわけではありません。むやみに軟膏や保湿剤を塗りすぎると、かえって皮膚トラブルにつながることもあります。ただし、

  • ご両親にアトピー性皮膚炎の既往がある場合
  • 乾燥肌や湿疹を起こしやすい赤ちゃん

このようなお子さんは、体をきれいに洗ったあとにしっかり保湿してあげることが大切です。


<参考文献>
(1) アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024
(2) 学校生活におけるアトピー性皮膚炎Q&A令和3年度改訂版(学校保健ポータル)
(3) Grimalt R, et al.: Study Investigators’ Group: The steroid-sparing effect
of an emollient therapy in infants with atopic dermatitis: a randomized controlled study. Dermatology, 214: 61-67, 2007.
(4)Nguyen KH, et al.: Moisturizing effectiveness of immediate compared with delayed moisturization. J Cosmet Dermatol.;21:5134-5140.2022.