Natsume O, Kabashima S, Nakazato J, et al.
Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.
Lancet. 2017;389:276–286.
― 日本発・世界に影響を与えた「PETIT試験」からわかったこと ―
「湿疹があるから、卵はまだ怖い」
「アレルギーが心配で、離乳食の進め方に自信がない」
これは、日常診療や育児相談でとてもよく聞く声です。
そんな不安に、科学的に答えを示した日本発の研究があります。
今回は、Lancet(ランセット)誌に掲載されたPETIT試験という論文をもとに、
なぜ“早く・少しずつ・皮膚を治しながら”卵を始めることが大切なのかを、わかりやすく解説します。
この研究は何を調べたの?
この研究の正式名称は:
Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT study)
(湿疹のある乳児に対する、2段階の卵導入による卵アレルギー予防研究)
ポイントは3つです
- 対象は「湿疹のある赤ちゃん」
→ 食物アレルギーのリスクが高いとされる集団 - 卵を“とても少量”から、段階的に食べる
- 6〜9か月:加熱卵粉末 50mg/日
- 9〜12か月:加熱卵粉末 250mg/日
- 同時に、湿疹をしっかり治療・コントロールする
つまりこの研究は、
👉 「湿疹がある赤ちゃんに、何も考えず早く卵を食べさせた」のではなく
👉 「皮膚の炎症をきちんと治しながら、安全な量で段階的に導入した」
という点が非常に重要です。
結果はどうだったの?
1歳時点での「卵アレルギー」の発症率は…
- 卵を少量から食べたグループ:8%
- 卵を避けたグループ:38%
👉 卵アレルギーの発症が、約1/5に減少しました。
これは統計学的にも有意な差が出ており、「偶然では説明できない効果」と判断されています 。
なぜ「湿疹の治療」がそんなに大事なの?
この研究が画期的だった理由の一つは、
「皮膚からの感作(かんさ)」に正面から向き合った点です。
湿疹がある皮膚では、何が起きている?
正常な皮膚は、角質に守られており、異物が侵入しにくいつくりになっています。しかし、湿疹などがあり、アレルゲンが皮膚のバリアを通過して、表皮や真皮に侵入すると、免疫細胞と反応して感作が起こります。
これを経皮感作(けいひかんさ)と呼びます。
一方、無害なアレルゲンに対しては、制御性T細胞と呼ばれるリンパ球が働き、アレルギー反応は起こりません。
これを免疫学的寛容といいます。
アレルギーがある人は、このシステムがうまくいっていないと考えられています。「経口免疫寛容」とは、食べたものに対して過剰なアレルギー反応を起こさないようにする仕組みのことです。
PETIT試験では、
- ステロイド外用薬を適切に使い
- 湿疹を“できるだけ良い状態”に保ったうえで
- 卵を少量ずつ口から食べる
という戦略を取りました。
以前まで、食物アレルギーは消化管でアレルゲンが吸収され感作が成立する腸管感作が主体と考えられていました。
ところが今回のPETIT試験ふくめた近年の研究結果から、スキンケア不足による「経皮感作」により食物アレルギーは進行し、食物アレルゲンを症状なく食べて摂取を続けることにより「経口免疫寛容」が誘導されることがわかってきました。
この研究から、保護者の方に伝えたいこと
- 湿疹はいたずらに様子見をせず、きちんと治す
- 離乳食は、怖がりすぎて開始時期を遅らせすぎない
- 卵は「少量・加熱・段階的」に進める
- 不安がある場合は、自己判断せずアレルギー専門医に相談する
「避けること」よりも、「正しく付き合うこと」
それが、これからの食物アレルギー予防の考え方です。
まとめ
- 湿疹のある赤ちゃんでも
皮膚を治療しながら、少量ずつ卵を導入することで、卵アレルギーは予防できる可能性がある - 日本で行われたPETIT試験は、世界のガイドラインにも影響を与えた重要な研究
- 離乳食は「遅らせる」より「安全に進める」時代へ
