― 外用治療から最新の全身治療まで ―
はじめに:アトピー性皮膚炎の治療薬ってどんなものがあるの?
アトピー性皮膚炎の治療は、
「症状が出たらその場をしのぐ治療」では安定しません。
現在の標準的な考え方は、次の 3つの柱 で治療を組み立てます。
- 確実な診断と重症度の判定
- 薬物療法・スキンケアの進め方を確認
- 悪化因子の検索と対策などを進める
薬物療法は、寛解導入(まずは皮膚をつるつるぴかぴかに)➡プロアクティブ療法(きれいな皮膚を維持する)という順番で行っていきます
ここでは、現在日本で用いられている主な治療薬・治療法を説明します。
1.外用療法の基本 ― 炎症を抑える
1)ステロイド外用薬
(1)薬の特徴
ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎の炎症を最も確実に抑える薬です。
外用ステロイドは作用の強さにより、
① ストロンゲスト
② ベリーストロング
③ ストロング
④ ミディアム
⑤ ウィーク
の 5段階 に分類されます。
剤形には、軟膏・クリーム・ローション・テープ剤があり、部位や好みに応じて使い分けます。
- 頭皮:ローションが塗りやすい
- べたつきが苦手:クリーム
- 皮膚が厚く硬い部位・ひび割れ:テープ剤
ローションは顔や体に使用しても問題ありません。
(2)塗り方(FTU)
外用薬は「量」がとても重要です。
人差し指(第2指)の先端から第1関節まで口径5mmの外用薬チューブから押し出された量
(約0.5g:1FTU)
→ 成人の手のひら2枚分が適量です。
たとえば、子どもで「成人の手のひら5枚分」の湿疹があれば、
1日2回塗布で 5gチューブ1本を2日程度 使用する計算になります。
ただ、必ずしも外用薬チューブの口径は5mmとは限らないので(4mm径だとさらに1.5倍程度押し出す必要あり)、
塗った場所がティシュペーパーが張り付くくらいべたべたに、や、てかてか光って見えるくらい、
といったことも参考にするとよいでしょう。
多くの場合、3~4日で赤みやかゆみは軽減しますが、
赤みが消えても「指でつまんで硬さが残る部位」は、
10日~2週間程度、医師の指示に従って塗り続けます。
(3)副作用
医師の指示どおりに使用すれば、
- 副腎不全
- 成長障害
- 糖尿病
といった内服ステロイドで問題となる全身性副作用は起こりません。
局所的な副作用として、
- 皮膚萎縮
- 毛細血管拡張
が起こることがありますが、多くは中止や調整で回復します。
なお、アトピー性皮膚炎でみられる色素沈着は、
炎症そのものによるもので、ステロイドが原因ではありません。
2.非ステロイド性外用薬 ― 炎症を別の角度から抑える
(1)免疫抑制薬:タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック)
薬の特徴
皮膚の免疫反応を調整することで炎症を抑えます。
ステロイド外用薬とは異なる機序で作用します。
- 皮膚萎縮や毛細血管拡張が起こらない
- 顔・首などに使いやすい
塗布初期にヒリヒリ感やかゆみが出ることがありますが、皮疹の改善とともに軽減します。
使用部位
- 顔・首
- ステロイドの副作用が出やすい部位
副作用
熱感、痛み、かゆみ、毛嚢炎などがありますが、多くは一時的です。
(2)JAK阻害薬外用:デルゴシチニブ軟膏(商品名:コレクチム)
2020年より使用されている外用薬です。
細胞内の免疫シグナル伝達に関わる JAK(ヤヌスキナーゼ) を抑制し、
免疫の過剰な活性化を抑えます。
- ステロイド・タクロリムスと異なる作用機序
- 治療の選択肢が広がりました
(3)PDE4阻害薬:ジファミラスト(商品名:モイゼルト)
2022年に登場した外用薬です。
PDE4を阻害することで細胞内cAMP濃度を上昇させ、
炎症性サイトカインの産生を抑制します。
- 軽~中等症の選択肢
- ステロイド以外を希望する場合にも用いられます
(4)タピナロフクリーム(商品名:ブイタマークリーム)
2024年に登場した、非ステロイド性・低分子外用薬です。
芳香族炭化水素受容体(AhR)を活性化し、
- 炎症性サイトカインの低下
- 抗酸化分子の誘導
- 皮膚バリア機能の改善
が示唆されています。
アトピー性皮膚炎と乾癬の両方に使用されます。
3.プロアクティブ療法 ― 「よい状態を保つ」治療
アトピー性皮膚炎では、
見た目がよくなっても 皮膚の深部に炎症が残っている ことが多く、再燃しやすい特徴があります。
そこで行うのが プロアクティブ療法 です。
十分な抗炎症治療で症状を抑えた後、
- 保湿外用薬によるスキンケア
- ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などをはじめとする非ステロイド抗炎症薬を
週2~3回など定期的に使用
して、再燃を防ぎます。
「よくなったらやめる」ではなく、
「よい状態を維持する」ための治療です。
4.その他の治療
(1)抗ヒスタミン薬
かゆみに対して使用されます。
これだけでは湿疹そのものは改善しませんので、外用療法と併用することが推奨されています。
(2)経口ステロイド薬
急激な悪化時や重症例に短期間使用されます。
長期使用は推奨されません。
5.中等症~重症例に対する全身治療
外用療法で十分な効果が得られない場合、全身治療を検討します。
(1)生物学的製剤
① デュピルマブ(生後6か月以上)
IL-4・IL-13を阻害し、2型炎症を抑制します。
② ネモリズマブ(6歳以上)
IL-31受容体を阻害し、抗ヒスタミン薬で抑えきれないかゆみに効果があります。
③ トラロキヌマブ(15歳以上)、レブリキズマブ(12歳以上)
IL-13を直接阻害する新しい生物学的製剤です。
※ 使用には「最適使用推進ガイドライン」があり、専門医の管理が必要です。
(2)経口JAK阻害薬
(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)
炎症とかゆみを比較的短期間で改善させる内服薬です。
高い効果がある一方、慎重な使用が求められます。
(3)免疫抑制薬:シクロスポリン
16歳以上の最重症例に適応があります。
長期使用は行わず、改善後は外用療法へ切り替えます。
まとめ
アトピー性皮膚炎の治療は、
- 炎症を確実に抑え
- 再燃を防ぎ
- 外用薬でコントロールできない場合は、全身療法を考慮
長期的な視点が重要な病気です。
治療の選択肢は年々広がっています。
症状が安定しない場合や治療に迷いがある場合は、
アレルギー診療に精通した医師へ相談することが大切です。
<参考文献>
1 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024
