はじめに

牛乳や乳製品は子どもの食生活において主要なカルシウム源となっています。しかし、牛乳アレルギーのあるお子さんは牛乳除去食(乳成分を含む食品を避ける食事)を続ける必要があり、カルシウム不足による健康への影響が懸念されます。カルシウムは骨や歯の形成に欠かせない栄養素であり、成長期の子どもには特に重要です。カルシウム不足への対策についても併せて紹介します。

カルシウムと子どもの骨の成長

カルシウムは成長期の骨形成にとって不可欠です。子ども時代から思春期にかけて十分なカルシウムを摂取することで、20歳代に達する最大骨量が高くなり、将来の骨粗しょう症リスクを低減できると報告されています。実際、小児期のカルシウム摂取量が高いほど骨密度が高くなる傾向があり、カルシウム摂取は小児の骨密度に重要な役割を果たすことが示されています。(参考文献1)

成長期には骨がめまぐるしく作り替えられており、カルシウムに加えてビタミンDやビタミンKも骨の代謝に必要です。したがって、バランスの良い食事とともに適切な栄養素を摂取することが、丈夫な骨を育てる土台となります。

牛乳除去食によるカルシウム不足のリスク

牛乳アレルギー児が牛乳・乳製品を除去すると、食事中のカルシウムが不足しやすくなります。通常、子どものカルシウム摂取の約40~50%は牛乳・乳製品由来と言われており、これらを除くと相当量のカルシウム源が失われてしまいます。食物アレルギー診療ガイドラインでも「牛乳除去によりカルシウムが不足しやすいため、カルシウム豊富な食品の摂取やアレルゲン除去用の調整粉乳などの利用を推奨する」と明記されています。つまり、牛乳を除去する場合には意識的に他のカルシウム源を摂取しないと、必要量に届かなくなるということです。(参考文献2)

実際の研究でも、牛乳アレルギー児のカルシウム摂取不足が確認されています。モントリオール大学の研究では、学童期の牛乳アレルギー児は一日の平均カルシウム摂取量が930mgで、その他の食物アレルギー児(乳製品を除去していない子)の1,435mgより大幅に少ないことが報告されました。両グループともビタミンD摂取量自体は推奨量(1日600IU)に満たなかったものの、牛乳アレルギー児ではカルシウム摂取の差が骨の健康に影響していたと考えられています。この研究では、牛乳アレルギー児の6%に骨密度の低下(年齢平均より低い骨量)が見られたのに対し、対照群(他のアレルギー児)ではそのような低骨量の子はいませんでした。研究者らは「牛乳アレルギーが持続する学童は、他の食物アレルギー児に比べて骨密度とカルシウム摂取量が低い」と結論付けており、骨密度低下の主な原因はビタミンDではなく慢性的なカルシウム不足にあると述べています。(参考文献3)

骨密度への影響と骨折リスク

カルシウム不足が続くと、骨密度への影響が蓄積し、骨折リスクの増加につながる可能性があります。上記のような骨密度の低下は、短期的には軽度かもしれませんが、思春期以降まで牛乳除去が続く場合、その影響はより顕著になると懸念されます。

ポーランドで行われた研究では、乳児期から牛乳を除去して育った子ども(2.5~20歳)のうち、特に女児で骨折リスクが高まる傾向が示されました。牛乳除去歴のある女児は、そうでない女児に比べおよそ4.6倍も骨折しやすいという結果で、これは統計的にも有意でした。男児では同様の傾向が見られたものの有意差はなく、特に女性において牛乳除去に伴う骨への影響が現れやすい可能性があります。研究者らは「牛乳アレルギーによる長期の除去食は女児の骨折リスク増加と関連する」と結論付けています。もっとも、この研究では人口全体から見た骨折への寄与は限定的(推計では全骨折のうち約6.7%が牛乳アレルギー・栄養不足に起因)とも述べられており、個人差も大きいことが示唆されています。ただし重要なのは、牛乳アレルギー児本人にとっては骨折しやすい体質になるリスクがあるという点であり、特に女児では注意が必要ということです。(参考文献4)

さらに、牛乳アレルギーが思春期・青年期まで持続した場合、骨密度低下が「若年性骨粗しょう症」に近い状態を招くことも報告されています。イスラエルの研究によれば、牛乳アレルギーを持つ若者は、同年齢の健常者に比べ有意に骨密度が低下しており、早期の骨粗鬆症リスクが高いことが示されました。しかし興味深いことに、経口免疫療法などで牛乳を摂取できるようになると骨密度が回復する兆候も見られ、牛乳摂取再開が骨の健康を改善する可能性が示唆されています。(参考文献5)

このことからも、可能であれば適切な治療により除去食を解除していく(牛乳を飲めるようにする)ことが骨の健康にプラスになると考えられます。

年齢による影響の違い

牛乳除去によるカルシウム不足の影響は、お子さんの年齢や発育段階によって異なることも知っておきましょう。一般に、牛乳アレルギーは乳児期に発症し、多くは幼児期~学童期までに耐性を獲得(アレルギーを克服)するとされています。しかし重症例では学童期以降もアレルギーが遷延することが増えており、そのようなケースでは長期にわたるカルシウム不足が問題となります。実際、日本の調査では、学童期・思春期まで牛乳除去が続いたアレルギー児の多くが乳児期からカルシウム必要量の50%未満しか摂れていない状態で成長していたことが報告されています。(参考文献6)この慢性的な不足により、思春期に入る頃には骨密度への影響が顕在化しやすくなります。

  • 乳児期(0~1歳頃): 母乳やアレルゲン除去用の特殊ミルクで育つ時期です。これらのフォーミュラには必要な栄養素が添加されており、適切に利用すればカルシウム不足を防ぎやすい時期です。ただし母乳栄養で母親が乳製品を除去している場合は、母親自身がカルシウム不足にならないようサプリメント等の配慮が必要です。
  • 幼児期(1~3歳): 歩き始めから徐々に食事の幅が広がる時期ですが、まだ牛乳や育児用ミルクからの栄養が大きな割合を占めます。牛乳アレルギーの場合、この時期に代替品を導入することが多いです。幼児期の推奨カルシウム摂取量は海外では約700mg/日、日本では約450~600mg/日程度ですが、この量を食事だけで満たすのは難しく、カルシウム強化飲料の活用がポイントになります。
  • 学童期(4~12歳): 骨の成長が加速し始め、カルシウムの需要が高まる時期です。特に10歳前後から思春期にかけて骨量が大きく増えるため、カルシウム不足があると骨密度への影響が出やすくなります。学童期後半の推奨摂取量は約800~1,000mg/日(日本・米国)とされていますが、牛乳を飲まない場合、この量を他の食品だけで摂るのは容易ではありません。
  • 思春期~青年期(13~20歳前後): 骨密度がピークに達する直前の最も重要な時期で、この間に1,000~1,300mg/日もの高いカルシウム摂取が推奨されます。牛乳アレルギーがここまで持続する例では、長期間の除去生活により栄養的ハンディを負っている可能性があります。実際に、思春期まで牛乳を除去してきた若者では最終身長がやや低くなる傾向や、骨量不足が指摘されています。(参考文献7)思春期以降もアレルギーが続く場合、栄養士と連携し計画的な栄養補給を行うとともに、必要に応じて骨密度検査を受けることも検討すると良いでしょう。

カルシウム不足への対策と代替手段

牛乳アレルギー児の骨の健康を守るためには、カルシウム不足を補う工夫が欠かせません。幸い、現在ではさまざまな代替食品やサプリメントが利用可能です。専門家の提言やガイドラインに沿って、以下のポイントに注意しましょう。

カルシウム強化飲料・ミルク代替品:
1歳を過ぎたら、カルシウム強化植物性ミルク(例:調整豆乳、アーモンドミルク、オーツミルク等)を活用できます。選ぶ際は1杯あたりカルシウム120mg以上(100ml中約120~160mg)含むもの、すなわちパッケージ表示で「カルシウム○%配合(1食分で30%程度)」と書かれている強化タイプを選びましょう。また、牛乳の代替とするにはタンパク質も重要です。例えば豆乳は1カップで7~8g程度のタンパク質を含み牛乳に近い栄養バランスなので、大豆や豆乳に対するアレルギーがなければ最も栄養価が近い代替品になります。

  • カルシウムを多く含む食品: 牛乳以外でもカルシウム源となる食品を積極的に取り入れましょう。例えば小魚(いりこ、しらす干し等)や海藻、豆腐・大豆製品、緑黄色野菜(ブロッコリーや小松菜など)、ナッツ類(アーモンド、ゴマ)にはカルシウムが豊富です。ただし野菜だけで必要量を満たすのは難しく、例えば小松菜だけでカルシウム600mgを摂るには毎日数百グラム(子どもの食べる量としては非現実的)を食べねばなりません。そこで上記の強化豆乳やカルシウム強化オレンジジュース、カルシウム添加シリアルなど強化食品を上手に組み合わせることが現実的です。
  • サプリメントの活用: 食事からどうしてもカルシウムが足りない場合、カルシウム剤やマルチビタミンのサプリメントを利用する方法もあります。カルシウム剤は用量とタイミングを守れば安全性は高いですが、小児では過剰摂取にならないよう医師に相談してから導入しましょう。あわせて、ビタミンDの補給も重要です。牛乳を飲めない場合は牛乳由来のビタミンDの摂取もなくなるため、日光浴や食品(魚類、きのこ類)からの摂取に加え、必要に応じてビタミンDサプリ(乳児で1日400IU、幼児以上で600IU程度)を検討してください。ビタミンDが不足するとカルシウムの吸収効率が下がり、せっかくカルシウムを摂っても骨に取り込みづらくなります。
  • 栄養士・医師との連携: 牛乳アレルギーのお子さんの栄養管理は専門家と相談しながら行うのが理想的です。定期健診で身長体重の増え方を確認し、必要であれば血液検査でビタミンDやカルシウムの状態をチェックします。長期にわたる重度の牛乳アレルギーの場合、骨密度検査を提案することもあります。

おわりに

牛乳アレルギー児におけるカルシウム不足と骨の健康リスクについて解説しました。牛乳・乳製品はこどものカルシウム源として重要であり、それを除去しなければならない以上、意識的な代替摂取が不可欠です。長期の牛乳除去は骨密度低下や将来的な骨折リスクに結びつく可能性がありますが、適切な栄養管理によってそのリスクを最小限に抑えることができます。カルシウム強化飲料を活用して、お子さんの骨の発達をしっかり支えていきましょう。

参考文献

  • 1 Weaver, C. (2006) Calcium. In: Bowman, B.A. and Russell, R.M., Eds., Present Knowledge in Nutrition, 9th Edition, ILSI Press, Washington DC.
  • 2 食物アレルギー診療ガイドライン2021
  • 3 Genevieve Mailhot、et al. Milk Allergy and Bone Mineral Density in Prepubertal Children. 2016 May;137(5):e20151742. 
  • 4 J Konstantynowicz, et al. Fractures during growth: potential role of a milk-free diet. Osteoporps Int. 2007 Dec;18(12):1601-7.
  • 5 Liat Nachshon ,et al. Decreased bone mineral density in young adult IgE-mediated cow’s milk-allergic patients. Allergy Clin Immunol. 2014 Nov;134(5):1108-1113.e3.
  • 6 今井孝成:厚生労働科学研究斑による食物アレルギーの栄養指導の手引き.厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療等研究事業 食物アレルギーの発症・重症化予防に関する研究,2008,p.11.
  • 7 Michael R Goldberg,et al. Risk factors for reduced bone mineral density measurements in milk-allergic patients. Pediatr Allergy Immunol. 2018 Dec;29(8):850-856.