汗を避けるより、「汗の後始末」が大切です
暑い季節や運動のあと、アトピー性皮膚炎のあるこどもでは、汗をきっかけにかゆみや赤みが強くなることがあります。
そのため、保護者の方からは、
「汗をかかせない方がよいですか?」
「運動は控えた方がよいですか?」
「汗をかいたら毎回石けんで洗った方がよいですか?」
と相談されることがあります。
結論からいうと、汗は単純に悪いものではありません。
汗には、体温を調節したり、皮膚のうるおいや皮膚表面の環境を保ったりする役割があります。
一方で、汗をかいたまま長く放置すると、皮膚がふやけたり、衣類との摩擦が増えたり、かゆみや湿疹の悪化につながることがあります。
大切なのは、汗をかかせないことではなく、汗をかいたあとに、やさしく落として、保湿し、皮膚の炎症をきちんと整えることです。
汗はアトピー性皮膚炎にとって「良い面」と「悪い面」がある
アトピー性皮膚炎のある皮膚では、バリア機能が低下し、乾燥しやすく、かゆみが起こりやすい状態になっています。
アトピー性皮膚炎では、発汗量が少なかったり、汗が出るまでに時間がかかったりすることが報告されています。汗がうまく出ないと、熱がこもりやすくなったり、皮膚の乾燥やかゆみにつながったりする可能性があります。
一方で、汗で皮膚や衣類が濡れた状態が続くと、皮膚がふやけたり、こすれたりして、湿疹が悪化することがあります。つまり、問題は「汗をかくこと」そのものよりも、汗が皮膚に残り続けることです。
「汗をかかせない」はおすすめしにくい
汗で悪化する経験があると、つい「汗をかかないようにしよう」と考えたくなります。
しかし、こどもにとって、遊び、運動、外出、学校生活はとても大切です。
汗を避けるために活動を制限しすぎると、体力づくりや友だちとの関わり、生活の楽しみが減ってしまうことがあります。
現実的には、汗を完全に避けることは難しいです。
そのため、アトピー性皮膚炎の汗対策は、「汗をかかない生活」ではなく、「汗をかいた後にどうするか」を決めておくことが大切です。
汗のケアに関する研究からわかること
汗のケアについては、日本からいくつか参考になる報告があります。
Mochizukiらは、小学生のアトピー性皮膚炎児53人を対象に、6〜7月の6週間、学校の昼休みにシャワーを行うスキンケアプログラムを実施しました。その結果、参加した全員でアトピー性皮膚炎の改善がみられ、学校生活の中で汗を洗い流すケアが有用である可能性が示されました。
Kameyoshiらも、学校でのシャワーがアトピー性皮膚炎児、とくに症状が重いこどもの管理に役立つ可能性を報告しています。このことから、汗をかきやすい季節や体育・外遊びの後に、汗を皮膚に残さない工夫が重要であると考えられます。
また、Kanekoらは成人のアトピー性皮膚炎患者を対象に、汗へのアレルギー反応の有無にかかわらず、汗の管理が有用であったと報告しています。小児を対象とした研究ではありませんが、「汗を完全に避ける」のではなく、「汗をかいた後に適切に処理する」という考え方を支持する内容です。
これらの報告から、アトピー性皮膚炎のあるこどもでは、汗をかく活動をすべて避けるのではなく、汗をかいた後に、できればシャワーや流水で流す、難しければ濡れタオルでやさしく押さえる、汗で濡れた衣類を着替える、必要に応じて保湿するという対応がすすめられます。特に夏場や体育・外遊びの後には、家庭だけでなく園や学校でも、無理なく続けられる「汗の後始末」をあらかじめ決めておくことが大切です。
基本は「流す・拭く・着替える・保湿する」
汗をかいた後のスキンケアは、難しく考えすぎる必要はありません。
基本は次の4つです。
- 可能ならシャワーや流水で汗を流す
- シャワーが難しければ、濡れたタオルでやさしく押さえる
- 汗で濡れた服は着替える
- その後、必要に応じて保湿する
ここで大切なのは、こすらないことです。
タオルでゴシゴシ拭くと、汗は取れても、皮膚に摩擦刺激が加わります。
汗を拭くときは、やわらかいタオルや濡らしたガーゼなどで、押さえるようにするのがおすすめです。
シャワーは使ってよい?
使ってよいです。
日本のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024では、アトピー性皮膚炎の治療においてスキンケアや外用療法が重要であり、汗や汚れなどの刺激を減らすことも実践上大切とされています。
もちろん、すべての学校や園でシャワーが使えるわけではありません。
その場合は、流水で流す、濡れタオルで押さえる、着替える、という方法でもよいです。
大切なのは、汗をかいた後の対応を、家庭・園・学校で無理なく続けられる形にすることです。
毎回、石けんで洗う必要はある?
汗をかいたたびに、毎回石けんで全身を洗う必要はないことが多いです。
汗そのものを落とすだけであれば、水やぬるま湯で流すだけでも十分な場面があります。
特に、乾燥しやすいこどもでは、石けんや洗浄剤を使いすぎると、かえって皮膚が乾燥したり、刺激になったりすることがあります。
一方で、汚れが強いところ、皮脂が多いところ、感染を繰り返しやすいところでは、低刺激の洗浄剤を使ってやさしく洗う方がよい場合もあります。
つまり、ポイントは、
「毎回しっかり石けん」でもなく、
「絶対に石けんを使わない」でもなく、
皮膚の状態に合わせて使い分けることです。
入浴・シャワーの温度は「ぬるめ」に
熱いお湯は、かゆみを強めることがあります。
また、皮膚の油分が取れやすくなり、乾燥につながることもあります。
入浴やシャワーは、38〜40℃くらいのぬるめを目安にするとよいです。
入浴時のポイントは次の通りです。
- 熱すぎるお湯を避ける
- 長湯しすぎない
- 洗うときは泡でやさしく洗う
- ナイロンタオルなどでこすらない
- 洗浄剤が残らないようにすすぐ
- タオルで押さえるように拭く
- 入浴後は早めに保湿する
保湿は「汗対策」の土台です
汗の後始末だけを頑張っても、皮膚の乾燥や炎症が残っていると、かゆみは起こりやすくなります。
アトピー性皮膚炎のスキンケアで最も基本になるのは、保湿を続けることです。
Cochraneレビューでは、保湿剤は湿疹の再燃を減らし、外用ステロイド薬の使用量を減らす可能性があると報告されています。
保湿のポイントは次の通りです。
- 湿疹がないように見えるところにも塗る
- 入浴後は早めに塗る
- 乾燥しやすい季節や汗を流した後は追加する
- しみる、赤くなる、かゆくなる場合は種類を見直す
- こどもが嫌がりにくい使用感のものを選ぶ
保湿剤は、よいものを一度塗るより、無理なく続けられるものを続けることが大切です。
炎症がある時は、保湿だけで頑張りすぎない
汗でかゆくなる、赤くなる、掻き壊す、を繰り返している場合、皮膚に炎症が残っている可能性があります。
この場合、保湿だけで何とかしようとしても、なかなか改善しないことがあります。
アトピー性皮膚炎では、皮膚の炎症を適切に抑えるために、ステロイド外用薬、タクロリムス軟膏、ジファラミスト軟膏、その他の抗炎症外用薬などを状態に応じて使います。
日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024でも、外用療法、スキンケア、悪化因子への対策を組み合わせて治療することが基本となっています。
「汗をかくとすぐ悪くなる」という場合、汗だけが原因ではなく、もともとの炎症が十分に落ち着いていないこともあります。
そのため、次のような場合は、主治医に相談してください。
- 汗をかくたびに強く悪化する
- 夜にかゆくて眠れない
- 掻き壊しが多い
- ジュクジュクする
- 黄色いかさぶたがある
- 薬を塗ってもすぐぶり返す
- どの薬をいつまで塗ればよいかわからない
汗対策は大切ですが、治療の土台は、炎症をきちんとコントロールすることです。
園・学校でできる汗対策
汗対策は、家庭だけでなく、園や学校での生活にも関係します。
特に、夏、体育、外遊び、登下校、部活動の後に悪化しやすいこどもでは、学校でできる対応をあらかじめ相談しておくと安心です。
たとえば、次のような方法があります。
- 替えの肌着やTシャツを持たせる
- 体育や外遊びの後に着替える
- 濡れタオルで首や肘・膝の内側を押さえる
- 可能なら水道で汗を流す
- 保湿剤を学校に置けるか相談する
- かゆみが強い時に保健室で対応できるようにする
学校で毎回シャワーを使うのは難しいことも多いです。
その場合でも、汗を拭く・着替える・保湿するだけで、できることがあります。
大切なのは、こども本人が「汗をかいたらどうすればよいか」を知っていることです。
衣類は「通気性」と「摩擦の少なさ」を意識する
汗をかく時期は、衣類の工夫も役立ちます。
おすすめしやすいのは、
- 通気性のよい素材
- やわらかい肌ざわり
- 締めつけが少ない服
- 汗をかいたら替えやすい服
- タグや縫い目が刺激になりにくい服
です。
反対に、チクチクする素材、硬い素材、締めつけが強い服、汗で濡れたまま乾きにくい服は、かゆみや摩擦の原因になることがあります。
ただし、高価な特殊衣類を必ず用意する必要はありません。
NICEのガイドラインでは、治療用シルク衣類や家庭用軟水化装置について、日常的に勧める根拠は限定的とされています。
まずは、普段の服を「こすれにくい・蒸れにくい・着替えやすい」ものにすることからで十分です。
汗をかく季節のおすすめスキンケアまとめ
朝
- 可能なら水やシャワーで汗を流す
- 難しければ濡れタオルで押さえる
- 汗で濡れた下着は着替える
- 乾燥しやすい部位に保湿剤を塗る
- 湿疹が出やすい部位は、主治医の指示通り外用薬を使う
- 汗をかきやすい日は、替えの肌着やタオルを準備する
外遊び・体育・登下校の後
- 可能なら水やシャワーで汗を流す
- 難しければ濡れタオルで押さえる
- 汗で濡れた服は着替える
- こすらず、やさしく対応する
夜
- ぬるめのお湯で入浴またはシャワー
- 泡でやさしく洗う
- 入浴後は早めに保湿
- 炎症があるところには、指示された外用薬を使う
よくある質問
Q. 汗をかく運動は避けた方がよいですか?
基本的には、汗を理由に運動をすべて避ける必要はありません。
運動は、こどもの体力や社会性にとって大切です。
ただし、運動後に汗を放置すると悪化することがあります。
運動を避けるよりも、運動後に汗を流す、拭く、着替えるという方法を考えましょう。
Q. 汗をかいたら毎回石けんで洗うべきですか?
毎回石けんで洗う必要はないことが多いです。
汗を落とすだけなら、水やぬるま湯で十分な場合があります。
ただし、汚れが強いところ、皮脂が多いところ、感染を繰り返すところでは、低刺激の洗浄剤を使う方がよい場合もあります。
Q. 保湿剤は汗でベタベタするので、夏は減らしてよいですか?
夏でも保湿は大切です。
ただし、ベタつきがつらい場合は、季節に合わせて使用感の軽いものに変更できることがあります。主治医と相談してください。
「夏だから保湿をやめる」ではなく、続けやすい保湿剤に調整するのがおすすめです。
Q. 汗でしみる時はどうしたらよいですか?
汗がしみる時は、皮膚に細かい傷や炎症がある可能性があります。
まずは汗をやさしく流し、こすらずに保湿します。
しみる状態が続く、赤みが強い、掻き壊しがある場合は、保湿だけでなく炎症の治療が必要なことがあります。主治医に相談してください。
まとめ
アトピー性皮膚炎のあるこどもにとって、汗は「悪者」ではありません。
汗には体温調節や皮膚を守る役割もあります。
ただし、汗をかいたまま放置すると、かゆみ、摩擦、湿疹の悪化につながることがあります。
大切なのは、
汗をかかせないことではなく、汗をかいた後に、やさしく流す・拭く・着替える・保湿することです。
そして、汗で悪化しやすい場合には、汗だけに注目するのではなく、皮膚の炎症が十分に落ち着いているかも確認する必要があります。
こどもが安心して遊び、運動し、学校生活を送れるように、家庭・園・学校で続けやすい汗対策を一緒に考えていきましょう。
参考文献
- 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024.
- NICE. Atopic eczema in under 12s: diagnosis and management.
- American Academy of Dermatology. Atopic dermatitis clinical guideline.
- van Zuuren EJ, et al. Emollients and moisturisers for eczema. Cochrane Review.
- Mochizuki H, et al. Effects of skin care with shower therapy on children with atopic dermatitis in elementary schools.
- Kameyoshi Y, et al. Taking showers at school is beneficial for children with atopic dermatitis.
- Kaneko S, et al. Usefulness of sweat management for patients with adult atopic dermatitis.
