〜「必ず進行する」という誤解と、正しい理解〜
「赤ちゃんの湿疹がひどいと、将来は食物アレルギーや喘息になるのですか?」
「アレルギーマーチという言葉を聞いて、とても不安になりました」
外来や保護者向け講演会で、こうした質問を受けることは少なくありません。
アレルギーマーチは、こどものアレルギーを理解するうえで重要な概念ですが、
一方で「一度始まると止められない」「必ず次の病気に進む」といった誤解も広く存在します。
ここでは、アレルギーマーチについて説明します。
1. アレルギーマーチとは?
アレルギーマーチとは、年齢とともにアレルギー疾患の表れ方が変化していく傾向を示した概念です。(参考文献1)
典型的には、
- 乳児期:アトピー性皮膚炎
- 乳幼児期:食物アレルギー
- 学童期以降:気管支喘息、アレルギー性鼻炎
といった順で現れることが多い、と説明されます。
重要なのは、これは
👉 「個々の疾患が年齢に関連して出やすい“傾向”」を示した概念
であり、アトピー性皮膚炎のあるすべての子どもに当てはまる予言では決してないという点です。
2. 「必ず進行する」は誤りです
アレルギーマーチという言葉が不安を生む最大の理由は、
「最初に湿疹が出たら、次は必ず喘息になる」
という誤解です。
しかし、長期コホート研究では次のことが示されています。(参考文献2)
- 乳児期にアトピー性皮膚炎があっても
すべての子どもが喘息や鼻炎に進行するわけではない - 食物アレルギーも
多くは成長とともに耐性を獲得する - 喘息・鼻炎を発症しないまま経過する子どもも存在する
つまり、アレルギーマーチは
「一本道」ではなく、「分岐の多い地図」のようなものです。
3. なぜ「マーチ」が起こると考えられているのか
現在、アレルギーマーチの背景として最も注目されているのが
皮膚バリア機能の破綻です。
皮膚は“最大の免疫臓器”
乳児期の皮膚、とくにアトピー性皮膚炎のある皮膚では、
- バリア機能が低下し
- アレルゲン(食物・環境抗原)が侵入しやすく
- 皮膚を通じた感作(経皮感作)が起こりやすい
ことが示されています。
この「皮膚から始まる炎症」が、
のちの食物アレルギーや気管支喘息などと関連する、というのが現在の主流の理解です。(参考文献3・4)
4. だからこそ「早期介入」が重要
アレルギーマーチは「止められない流れ」ではありません。
むしろ近年は、日本で行われたPETIT Studyをはじめとした研究によって
適切な早期からの介入によって、次に起こりやすい疾患のリスクを下げられる可能性がある
ことが示唆されています。(参考文献5 別記事で解説しています https://haremachikodoare.net/article-petitstudy/)
5. アレルギーマーチを「過度に恐れなくてよい理由」
アレルギーマーチという概念は、
- 予測のためのラベル
- 不安をあおる言葉
ではありません。
本来は、
- 乳児期からのアレルギー疾患を連続したものとして捉える
- 早い段階から、全体を見据えた診療を行う
ための考え方です。
6. 保護者の方へ:大切にしてほしい視点
- 「次に何が起こるか」より「今、何ができるか」が重要です
- 湿疹があれば、早めにしっかり治す
- 離乳食は、根拠に基づいて進める
- 不安があれば、早めにアレルギー専門医に相談する
アレルギーマーチは、
子どもの将来を決める“予言”ではありません。
まとめ:アレルギーマーチは「運命」ではなく「傾向」
- アレルギーマーチは、アレルギー疾患が年齢とともに変化して現れやすい傾向を示した概念
- 必ず進行するわけではない
- 背景には皮膚バリアと免疫の発達が関与している
- 早期からの適切な介入で、リスクを下げられる可能性がある
- 大切なのは、「今できることに取り組むこと」
<参考文献>
(1) Spergel JM, Paller AS. Atopic dermatitis and the atopic march. J Allergy Clin Immunol. 2003;112(6 Suppl):S118–S127.
(2) S A Alduraywish,et al. The march from early life food sensitization to allergic disease: a systematic review and meta-analyses of birth cohort studies. Allergy.2016;71(1):77-89.
(3) Teresa Tsakok,et al. Does atopic dermatitis cause food allergy? A systematic review. J Allergy Clin Immunol. 2016;137(4):1071–1078.
(4) Irvine AD, McLean WHI, Leung DYM. Filaggrin mutations associated with skin and allergic diseases. N Engl J Med. 2011;365:1315–1327.
(5) Osamu Natsume,et al. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2017 Jan 21;389(10066):276-286.
